シップス、画像認識AIでCVR3倍 サイト統合後の検索性を改善

シップス

ファッションアイテムのセレクトショップ「SHIPS(シップス)」を運営するシップスは2018年11月にECサイトとコーポレートサイト、オウンドメディアを統合した。サイト統合でユーザー数やEC売上高は伸びたものの、商品の検索性に新たな課題が生まれたという。UI/UX改善の一手として導入したのが、popInが提供するEC向け画像認識AIサービス「popIn Action(ポップイン アクション)」。高度な画像認識AIにより、閲覧している商品画像と類似した商品を探すことができたり、ユーザーが持つ画像から似たようなイメージの商品を検索できるサービスだ。シップスのデジタルマーケティング部 課長 萩原千春氏は、「スマホシフトが進む中、より直感的に商品や情報を探せるサービスが主流になる」と考え、「popIn Action」導入を決めた。「popIn Action」利用者のコンバージョン率は3倍以上に跳ね上がり、離脱率は約4分の1に減少したという。シップス 萩原氏とpopIn Eコマースソリューション事業部 部長 吉岡真宏氏に導入の経緯からサービスの効果、改善の工夫などを聞いた。

popIn Eコマースソリューション事業部 部長 吉岡真宏氏(写真左)とシップス デジタルマーケティング部 課長 萩原千春氏

サイト統合でセッション数、EC売上1.5倍

――自社ECサイトはいつから展開し、どのように強化してきましたか?

萩原萩原シップスのEC事業は「セレクトスクエア」(現在の「タカシマヤファッションスクエア」)への出店から始まり、「ZOZOTOWN」「iLUMINE」など当初はモール販売を中心に展開していました。自社ECサイトは2010年に開設しています。リアル店舗とECの会員統合などは比較的早くから取り組んでいました。オムニチャネルやオンラインでの顧客接点をより最適化しようと、2017年に「ecbeing」を導入し、ECサイトをリニューアル。システムの切り替えでもサービスを安定的に継続できるように注力し、決済方法などを拡充しました。そして、2018年11月にコーポレートサイトとECサイト、オウンドメディアなどを統合しました。

シップス デジタルマーケティング部 課長 萩原千春氏

――サイト統合による成果は?

萩原萩原統合前のECサイトのセッション数(ユーザーの訪問回数)を1とすると、コーポレートサイトはその1/4、オウンドメディアは1/10くらいの規模でした。元々のクロスユースを考えると単純な足し算にはならず、逆に減少することも想定していましたが、統合後の全体のセッション数は合算値に留まらず、実際は1.5倍まで拡大しました。
EC売上高も統合前と比べると1.5倍に、PVは2倍以上になりました。統合した結果、商品を探しにサイトに訪れたお客さまがリアル店舗やイベントの情報、オウンドメディアの情報に、シームレスにつながりやすくなった効果が出ていると思います。商品を見にきて、リアル店舗を探すお客さまは、購買意欲が高いまま、来店していただける可能性があります。もちろん逆もしかりでオウンドメディアやリアル店舗の情報を探しにきたお客さまがそのまま商品まで探しやすくなったと思います。シームレスな導線やUXを強化したかったので、良い結果が出たと思っています。

――統合したことでユーザーの回遊率が高まり、PV数が伸びるのは分かりますが、セッション数も伸びているのはなぜなのでしょうか?

萩原萩原サイトを統合することでコンテンツが充実し、SEO効果が高まったり、プロモーションの取り組みが一本化された効果も出ていると思います。これまでリアル店舗への送客を促すプロモーションを実施しても、お客さまは店舗情報に行き着くだけで、そこからECへの流入にはつながりませんでした。メールマーケティングから集客効率も良くなっていると思います。

ナビゲーションに課題、画像認識AI導入

――サイト統合によって生じた課題はありますか?

萩原萩原サイトを統合して、一番難しいと感じたのが、ナビゲーションの部分です。ECサイトであればいきなりアイテムカテゴリーを表示し、商品の絞り込みに誘導しても違和感はありませんが、コーポレートサイトなどと統合したことで、来訪されるお客さまは商品を探されている方だけではないという難しさがありました。ECサイトとして考えると、トップページから商品が探しにくくなった面もあると思います。

公式サイトとしても商品情報がメインコンテンツとなりますので、商品情報を効果的に見ていただければ、購買意欲が湧き、ECサイトで購入していただけたり、実物を確認するためにリアル店舗の情報を見ていただけたりすると考えました。商品をもっと検索しやすくするためにどうすればいいかと考えていたときに、popInの吉岡さんから「popIn Action」のことを教えてもらい、2019年7月に導入しました。

吉岡吉岡「popIn Action」は、画像認識AIにより類似商品を簡単にレコメンドできたり、SNSで保存した画像や撮影した写真から似ている商品を検索できるサービスです。サービスを提供し始めてすぐに萩原さんにお声がけし、導入を決めていただきました。

萩原萩原お客さまがスマホにどんどんシフトしている中で、文字を入力して検索することを面倒に思う方は増えていくと思います。音声検索が増えているのはそういうことだと思います。より直感的に商品や情報を探せるサービスが主流になっていくと思っています。

吉岡吉岡スマホで見ているユーザーは、商品画像のアイコンをワンタップするだけで類似商品をポップアップで確認できるので、商品を探しやすくなります。類似商品の情報はデフォルトで30件表示しています。ユーザーは自分が興味を持っている商品の類似商品をひと目で確認できるので、回遊率や購入意欲が高まる傾向にあります。EC事業者さまに関しては、フロントのデザインを全く変える必要がなく、アイコンを配置するだけで機能を実装できる点も魅力だと思います。

「SHIPS」における「popIn Action」の利用イメージ

【「シップス」が導入した「popIn Action」の4機能】

・類似アイテム検索機能(商品ページのアイコンクリックで似たアイテムを表示する機能)

・画像検索機能(ユーザーの保有画像から似たアイテムを検索できる機能)

・類似アイテム検索機能 for コーディネートページ(コーディネート画像から着用しているアイテムと似たアイテムを表示する機能)

・お気に入りレコメンド機能(お気に入り登録したアイテムと似たアイテムを表示する機能)

“探し出す”感覚がレコメンドとの違い

――レコメンドエンジンとの違いや棲み分けの必要は?

吉岡吉岡既存のレコメンドエンジンをリプレイスする必要はなく、商品を導き出すロジックも異なりますので、当社としては両方あると相乗効果が得られると考えています。「popIn Action」はレコメンドエンジンと異なり、ユーザーが能動的に機能を活用するので、「ECサイトが薦めてきた」という感覚ではなく、「自分で探し出した」という感覚で商品との出会いを創出しています。ユーザー体験としても新しいUI で、楽しく使える便利な機能だと思っています。

popIn Eコマースソリューション事業部 部長 吉岡真宏氏

萩原萩原テキストを打って商品を検索するお客さまは、そのアイテムのキーワードを分かっていないと探すことができません。雑誌やSNS、テレビで見かけたり、それこそ街で歩いている人が着ているのを見つけてほしいと思ったアイテムを、詳しく分からなくても画像で検索したり、似ているアイテムから探し出せるのは、ユーザー体験としても良いサービスだと思いました。

吉岡吉岡ビジョナリーホールディングスの川添隆さんも「検索はスキルだ」とおっしゃっていましたが、検索スキルは世代が上がるごとに低下する傾向にあります。スマホやECサイトに慣れていない世代は、欲しいものがあっても目当ての商品を探せず諦めてしまっているのでは、と弊社では考えています。もちろん若い世代のユーザーにも使っていただきたいですが、スマホに慣れていない世代にも一度「popIn Action」を使っていただければ、商品を探すことが簡単になり、ECサイトで商品を購入することに対してポジティブな印象を持ってもらえるのではないかと思っています。

改善スピードが大きな魅力

――導入後に機能やデザインの改善にも対応しているのですか?

吉岡吉岡シップスさまのECサイトでは、商品画像の右下にアイコンと「似たアイテムを見る」というテキストを入れさせていただいています。このアイコンのデザインもこれまでに3回くらい修正しています。シップスさまからご要望をいただきつつ、私たちからも提案し、現在はこのデザインに落ち着いています。


最初は動きがなかったのですが、動きをつけたほうが機能に気付いてもらいやすいと考え、ページ表示後にテキストをポップアップで表示するようにしました。私からテキストを表示後に消すことを提案しましたが、萩原さんから「そのまま残しましょう」とアドバイスをいただき、残す形にしています。

アパレル事業者さまは商品画像へのこだわりが強いと思いますので、その画像の上にアイコンを置かしていただくことが可能なのか、最初は不安な面もありました。萩原さんから「その点は問題ない」と言っていただきました。他のアパレル事業者さまでも、その点がハードルになることはありませんでした。

popIn 吉岡氏(写真左)とシップス 萩原氏

萩原萩原お客さまは商品詳細ページに入る前に商品画像を確認しています。つまりその商品を詳しく見たいと判断する時点では、しっかり商品画像の全体像を見ているのです。また、より詳細な情報を確認するためにはメイン画像以外の、いわゆる他の詳細画像や拡大機能などを使って閲覧されるので、商品詳細ページでは「popIn Action」をしっかり使ってもらえるようにアイコンを分かりやすく表示した方がユーザーメリットは大きいと判断しました。

吉岡さんからも数値を見ながら「ここを修正した方がうまくいきそう」「新たにこれもやりませんか」という提案をたくさんいただいており、さらに効果を高めるチャレンジができています。まず商品詳細ページに類似商品の検索機能を導入し、検索窓に「画像検索」を実装しましたが、その後、「スタイリング(スタッフのコーディネート画像)」のページにも類似商品レコメンドを追加しました。さらに商品をお気に入り登録した際に、そのアイテムと似た商品を表示する機能も追加しています。ユーザービリティーを高めていけることは、われわれとしても非常にありがたいです。

吉岡吉岡萩原さんとは毎週のようにやり取りしていますね。われわれのサービスは対面で話をしないと施策を進められないものではないので、メッセンジャーや電話でやり取りさせていただきつつ、デザインの変更や機能の拡張を進めることができています。お互いコミュニケーションの負荷も少なく、効果を高めることができていると思います。

当社の親会社であるバイドゥは中国のハイテク企業であり、経営や事業のスピードを重視しています。バイドゥのエンジニアが開発を行っていますが、こうすればこういう効果が出ると具体的な依頼を送ると、ものすごくスピーディーに対応してくれます。

萩原萩原お世辞ではなく、本当に改善スピードが早い。私たちにとってもサービスの改善が迅速にできることはありがたいです。

コンバージョン3倍、離脱率4分の1

――「popIn Action」を導入した具体的な成果は?

萩原萩原「popIn Action」利用者のコンバージョン率は、変化率で表現すると利用していないユーザーの3倍以上あります。「popIn Action」で類似商品まで探した方の離脱率は4分の1くらいになっています。購買率や回遊率において間違いなく効果がありました。

当初、類似商品を探しやすくすると、平均単価が下がってしまうのではないかという懸念もありました。しかし、蓋を開けてみると単価は下がらず、1.2倍ほど上がっています。当社では仕入れのセレクトアイテム以外にオリジナルアイテムやブランドと共同開発したアイテムなど、ざっくりと価格帯の異なる3カテゴリで展開しておりますが、類似商品を並べた際に、場合によっては価格は少し高くてもデザインや品質で満足するアイテムを選んでいただけているのだと思います。

吉岡吉岡「popIn Action」では価格は考慮せずに、画像だけで表示するアイテムを判断しています。シップスさまに限らずどの事業者さまでも利用者の購入単価は上昇する傾向にあります。ただ技術的には価格を考慮して出し分けることも可能なため、要件に合わせた実装を行っています。

popIn 吉岡氏

スタッフや店鋪との関係性を強化

――今後、さらに強化したい機能はありますか?

萩原萩原現在は商品だけしかお気に入り登録できませんが、サイトを統合し、多様なコンテンツがありますので、今後はスタッフや店舗もお気に入り登録できるようにしたいと思っています。SNSでフォローするような感覚でスタッフをお気に入り登録してもらい、スタッフが更新したスタイリングをお知らせしたり、お気に入り登録している店舗のブログ記事をお知らせできるようにしたりしたいと考えています。もちろんその先にはOne to Oneでの情報配信やユニファイドコマース、OMO戦略の活用はもちろんですが。

スタッフのお気に入り機能を実装できれば、スタッフが投稿したスタイリングを見ていただく機会も増えます。「popIn Action」でスタイリングから類似アイテムを探し、より商品を見ていただく可能性も高まると考えています。

シップス 萩原千春氏

吉岡吉岡スタッフのお気に入り登録機能が実現するとそのスタッフのスタイリングを過去に遡って閲覧するユーザーが増えそうですね。ファッションアイテムは商品の入れ替わりがあるため、過去のスタイリングから着用アイテムを見つけたとしても、現在は販売していないアイテムだったというシーンが増えるかもしれません。「popIn Action」はそのようなシーンでも現在販売しているアイテムの中から、似ているアイテムを簡単に探すことができるので、機会損失を減らすことができます。

吉岡吉岡仰るとおり、過去のコンテンツも文字通り資産になるわけです。せっかく力を入れたコンテンツも、過去のものだと販売在庫もなく、活かしきれない現状があります。その課題解決にも期待しております。

他には、スタッフによるチャット接客の導入も検討しています。チャットでご相談いただいたときに「popIn Action」を使ってお客さまの希望に沿った商品を紹介できれば、接客のレベルも上がります。リアル店舗でも接客の会話から商品を提案したりしていますが、「popIn Action」を活用してさらに詳しい商品提案を実現できるかもしれませんね。ネットとリアルの両面で活用の可能性をさらに探っていきたいと思います。

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